季刊まちりょくvol.4
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※P.10に続く☞8森 まゆみさん作家・編集者 やるべきことはたくさんある。そのひとつとして被災地の伝統文化産業の灯を絶やさないことをあげたい。四半世紀前、東北への玄関、赤煉瓦の東京駅の保存の際、雄勝、登米、仙台からたくさんの賛同署名が送られてきた。なぜなら大正3年の東京駅が完成した時の屋根スレートは雄勝産、昭和20年空襲で焼けた時の修復は登米産だったからだ。 保存は成功し、東京駅は国の重要文化財になり、いま創建当初のすがたに修復中である。そのための古材スレートは石巻の北上で手入れ中、新材は雄勝から切り出して発送するばかりだった。そこに3・11の津波、被災したスレートが工事に使われなかったらどうするのか。相談を受けて、私は17人に発信、1週間のうちに「ぜひ被災したスレートを使って」という賛同人は3000人を超えた。JR東日本の努力もあってこの被災スレートはきれいに洗って東京駅の屋根にのることになった。よかった! 東北復興のシンボルになることを望む。私は2度、現地を訪ねたが、雄勝の天然スレート産業が復興しないと日本の洋館の屋根は国産スレートでは葺けなくなる。いま、硯産業、また北上川河口の茅葺き屋根産業もふくめ、復興の募金をはじめたところだ。森 まゆみ (もり まゆみ) 東京都生まれ。地域雑誌「谷中・根津・千駄木」の編集の傍ら、ノンフィクション、エッセイ等を多数手がける。祖先のルーツが宮城県丸森町にあることから、同町で農業にも従事。東日本大震災発生後には宮城県内・福島の被災地に本を届ける活動を行った。石巻市雄勝にある「雄勝天然スレート株式会社」の木村社長。自宅・工場は津波で全壊してしまった。背後の山がスレートの岩脈、明神山。雄勝天然スレートの復興を!佐々木 隆二 (ささき りゅうじ) 気仙沼市生まれ。東北の文化・民俗・暮らしなどをテーマにした写真や、仙台文学館の初代館長を務めた作家、故・井上ひさし氏のポートレイトなどを撮り続ける。著書に『宮城庶民伝』(共著)、『ひたすらに生きて』(共著)、『写真集・風の又三郎』など。今年7月には「仙台コレクション」(仙台の風景を1万枚の写真で記録するプロジェクト)で震災後の写真展を開催。れたがれきの中から妻の写真を見つけた。遺体は発見されたものの、写真は1枚も無かった。見つかったのは37年前の花嫁姿の写真。輝夫さんは「不思議なもので、よし子と出会った若い頃のことばかり思い出しますね」と、少し照れた。 写真は一瞬を固定する。時間も空間も心の思いさえも瞬間接着剤のように固定してしまう。 輝夫さんはいま、その固定された時を巡り、2人で過ごしたかけがえのない時間を蘇らせて、写真に話しかけているという。 「ありがたいことに避難所では3食出るので、食うのには困っていません。でも1食でもいいからまた、2人で一緒に食いたいね」。輝夫さんはそう言いながら、泥と染しみにまみれた花嫁姿のよし子さんの写真をそっと撫でた。撮影:佐々木隆二

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