季刊まちりょくvol.3
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佐伯 一麦さん(作家) 被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。この厳しい現実を前に、言葉の無力さを痛感させられる日々です。特に津波の被害に遭った沿岸部の風景は、無そのもの、言葉を失って立ち竦むのみで、希望などという言葉は、まだ出て来ようもありません。 しかし、私たちは非日常の空間にとどまっていることはできない。少しずつでも、震災のあとさきでも変わらないものを見つけて、日常を取り戻していくしかない。津波に襲われた夜、地上の惨禍をよそに空には満天の星が瞬いていました。避難所で月を友として仰ぎ見た人もあるでしょう。 かくもか細く脆い足場の上に成り立っていたのか、と厭というほど思い知らされることとなった日常のありがたみに、しばらくは心を添わせて生きようと思っています。(仙台文学館ホームページより転載)37

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