季刊まちりょくvol.3
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仙台で生まれて盛岡で育ったので、東北にはいつも特別な想いを感じています。今回の震災では、何もなすすべもなく、最初は無力感を感じました。10日ぐらいたって、このままではいけない、何かをしなければ、と思ったとき、自分にできるものは音楽であり、とにかく被災地の方々に直接の音を届けたい、と強く思いました。物や形のあるものも必要ですが、形のない音楽というものも、安らぎだったり驚きだったり、人間が持っている感情を呼び起こすのに必要なはず。それをきっかけに、復興への勇気や力を持ってもらえれば嬉しいと思い、岩手・宮城を巡るコンサートを開くことにしたんです。 5月10日・11日は釜石と宮古の小学校を訪ねましたが、「できるだけ子どもたちが喜ぶように華やかなドレスを着て演奏してほしい」と校長先生に言われたときは、絶句しました。小学校の卒業式も、全員できる限り一番いい服を着て、今とは違う世界がこれから広がるという気持ちで行ったと聞き、実際の被災地の方々の底力に心をうたれました。現実を心に留めようと思い、三陸海岸沿いの津波の被害を受けた町々にも行きました。その風景を見て、音楽で人々に夢や希望を与えることの意義を本当に感じました。 その後、5月13日・14日・15日は仙台で小学校と介護施設を訪問しました。6月には石巻の病院や小学校で演奏する予定です。仙台では、12年間のリサイタルシリーズ「音の旅」を年2回開催しており、ちょうど今年が折り返し地点なんです。その年にこの震災が起こり、継続するということは難しいことだけれども、ピアノで発信していくことが私の使命なのだと思い、自分が信念を持って続けなければと強く思っています。そういう前向きな推進力を持って進んでいきたいのです。(2011年5月15日取材)※延期になっていた「音の旅」第11回(会場/青年文化センターコンサートホール)は8月1日に開催が決ま りました。本誌40ページをご覧ください。小山実稚恵さん(ピアニスト)※小山さんは、5月10日から15日にかけて岩手(釜石・宮古)と仙台で、また6月14日には石巻で、 被災された方々へ向けたピアノコンサートを主催されました。33

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