季刊まちりょくvol.3
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18art reviewやんや 金野むつ江の声は、独特の味のある声だと思う。例えて言えば、りんりんと鳴る鈴の音のようで、一度聞いたら忘れられない印象深い声である。 童女のような元気いっぱいの動きと、時折みせる底意地の悪い女のしぐさと共に、彼女の魅力であろう。私は毒を持つ女優が好きである。底抜けに陽気な少女を演じているときの、ふとした瞬間に垣間見える妖気、その毒は民話の世界には不可欠であると私はかんがえる。そのことからも、今回のような企画は彼女にぴったりであるといえよう。 みちのくに伝わる民話(どれもどこかで聞いたことのある懐かしさがある話)が語られてゆく中で、「あと語り」という説明がある。これが良かった。 金野むつ江と小野和子の語り口はまったく対照的なもので、金野が民話を演じて観せるのに対して、小野は民話の説明を話す。このふたつがあって、民話はより観客に広く深く浸透する。この構成は観客にとって親切である。小野和子のライフワークである「東北地方の民話探訪」は、1970年から続いていると聞く。名も無き人たちの物語は、痛々しい現実そのままに、時代をつなぎ現代まで生き続けてきたのだ。密やかに強したたかに、女たちは泣き笑いをくりかえしてきたのである。 「あと語り」をしながら、小野和子のその手に、いつぞや小さな村で出会ったおばあさんからいただいたという古びた絵本が現れたとき、彼女の話はより現実味を増し、深い感動をおぼえた。民話に描かれる世界は、女性の哀しい歴史でもある。自分の人生を選べず、辛い日々の生活で、女たちが必死に生きていた証あかしが随所にあらわれる。小野の優しい語り口でそのことが語られるとき、観客は聞き入っていた。真実と現実の強さである。ほんとうのことは、人の心をうつ。女にこだわり、おんなを描くみちのく民話まんだら2010丹野久美子(劇団I.Q150主宰)

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